私たちは、飲食の仕事をかなりやっています。
商業施設のグルメフロアを取材したり、飲食店を撮影したり、SNSで紹介したり。 飲食に関わるCreativeは、むしろ日常的につくっています。
ただ、個店の飲食店に対して、インフルエンサーを使った集客を積極的に提案することはありません。
この二つは、私たちの中ではまったく別の仕事です。
そして、その理由を考えると、結局ひとつのところに戻ってきます。
一度来てもらうことと、繁盛することは違う。
01.一度来てもらうことには、強い。
飲食店とインフルエンサーマーケティングの相性は、悪くありません。
新しい店を知ってもらう。 新しいメニューを見てもらう。 短期間で話題をつくる。 来店のきっかけをつくる。
こういうことには強い。
一本の投稿から予約が増えることもあるし、行列ができることもあります。
だから、インフルエンサーマーケティングに効果がないという話ではありません。
むしろ、最初の一回来てもらうための力はかなり強いと思っています。
ただ、その次です。
また来るのか。
半年後にも来るのか。
誰かを連れて来るのか。
三年後にも、その店を選ぶのか。
そこから先は、インフルエンサーの仕事ではありません。
02.SNSで取りやすい人が、いいお客さまとは限らない。
これは、広告にも似ています。
CPCだけを見れば、クリック単価の安い層をたくさん取りたくなります。
でも、その先まで見ると、クリック単価が安い層のCVRが悪く、むしろCPCの高い層が売上をつくっていることがあります。
これは一般論ではなく、株式会社西村が広告運用の現場で感じていることです。
取りやすい人と、価値のある人は同じではない。
飲食店も似ていると思っています。
Instagramで新しい店を探す人。
話題の店にすぐ行く人。
新しいメニューや映える料理に反応する人。
インフルエンサー施策では、そういう人を集めやすい。
でも、その人が三年通ってくれる人なのかは、また別の話です。
SNSで取りやすい人だけを見ていると、いつの間にか、
SNSで取りやすい店をつくることが目的になってしまう。
そこには、少し怖さがあります。
03.私は、流行を食べたいわけではない。
ここからは、かなり個人的な話です。
私は外食が好きです。
お酒も好きです。
定期的に通う店もあります。
でも、私が好きで通っている店を思い返してみても、インフルエンサーを起用して集客している店は一軒もありません。
一軒もない。
これは、たまたまではないと思っています。
たぶん私は、そういう店をそもそも好きにならない。
好きな店には、大将がいます。
店主がいます。
バーテンダーがいます。
その人に会いに行く。
その人の料理を食べたいから行く。
その人が入れてくれる酒を飲みたいから行く。
小さなカウンターの店なら、隣に座ったお客さんと話すこともあります。
同じ店を好きな人だからなのか、不思議と会話が合う。
そういう時間も含めて、その店が好きになります。
料理がおいしい。
また食べたい。
大将に会いたい。
誰かを連れて行きたい。
あのカウンターに座りたい。
私にとって飲食店は、料理だけを消費する場所ではありません。
人と場所ごと、好きになるものです。
だから、SNSで突然話題になって、たくさんの人が押し寄せている店を見ても、あまり行きたいとは思いません。
そこで食べているものが料理なのか、流行なのか。
私は、流行を食べたいわけではありません。
04.どんな店をつくりたいのか。
ただ、ここには正解があるわけではありません。
半年、一年で一気に話題をつくる。
インフルエンサーを起用して行列をつくる。
ブームの間に売上を最大化する。
そして、ブームが落ち着けば、また別の店や業態をつくる。
それも商売です。
それで利益が出て、経営者もスタッフも幸せなら、外から否定する話ではありません。
ただ、私たちはそこに興味がありません。
三年後もある店。
五年後もある店。
十年後にも、大将が同じカウンターの向こうにいる店。
私たちは、そういう店の方に惹かれます。
だから結局、
インフルエンサーマーケティングが正しいか間違っているかではなく、どんな店をつくりたいのか。
という話なんだと思います。
05.商業施設の飲食を扱うことは、少し違う。
一方で、私たちは商業施設の飲食コンテンツを数多くつくっています。
これは、私たちの中では矛盾していません。
館には、たくさんの店があります。
まだ知られていない店を見つけてもらう。
「こんなお店もあったんだ」と知ってもらう。
季節のメニューを伝える。
館内を回遊してもらう。
その施設そのものの魅力を編集して、届ける。
これは、SNSがかなり得意な仕事です。
個店の繁盛そのものをSNSでつくろうとすることと、
館がメディアとしてテナントの魅力を届けることは、私たちの中では違います。
前者は、店の未来そのものに関わる。
後者は、発見のきっかけをつくる。
その違いは大きいと思っています。
話題になる店をつくることと、好きな店になることは、同じではない。
06.だから、私たちは積極的にはやらない。
飲食店のインフルエンサーマーケティングに効果がないからではありません。
効果はあります。
向いている店もあります。
その方法で成功する店も、幸せになる経営者もいる。
それを否定するつもりはありません。
ただ、私たちは、それを自分たちがつくりたい繁盛の形だとは思っていません。
そう思っている会社が、個店の飲食店に対して、
「インフルエンサーを使って集客しましょう」
「SNSで話題をつくりましょう」
と積極的に売りに行くのは、むしろ店に対して失礼だと思っています。
一度、人を呼ぶことはできる。
でも、その店を好きにさせることまではできない。
また行きたいと思わせるのは、
料理であり、 人であり、 そこで過ごした時間です。
そこは、インフルエンサーの仕事ではありません。
私たちは、そう考えています。
